配車企業は 来週の上場に向けて,出前配達から貨物配達まで,輸送の世界を牛耳ろうと狙う。
だが 依然として黒字になったことが全くない。
Uber の将来の願景は,大多数の人が車を持たないことだ。短距離は 電動の自転車やスクーターで移動し,
長距離は運転手つきの車を呼ぶ。
最終的には,ロボットが支配する。自動運転車は路上で ── 空中でも ── 人を運び,ドローンが配送を
請け負う。ロボ・トラックは高速道路を走り回る。そして,その中心に Uber がいる。
だが待てよ,その前に そもそも Uber が黒字になるかという疑問がある。
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パリで Uber の電動自転車 JUMP に乗る人。
(©Chesnot | Getty Images)
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Uber は来週の金曜日に テック企業として最大級の IPO をする予定であるが,Dara Khosrowshahi CEO はウォール街に, Uber があらゆる形態の輸送において覇者になるとの願景を売り込もうとしている。
その使命は,この数ヵ月激化した すべての前線での競争の猛攻撃により危機に瀕しており,Uber の赤字を 3月に終った1年に $37 億以上に膨らませた。S&P Global Market Intelligence によれば,IPO 前の1年のアメリカ・スタートアップ企業にしては,例を見ない最大級の赤字である。
懐の深い支援者を持つスタートアップ企業は,アメリカ,インド,メキシコでの Uber の出前配達サービスに対し大幅な割引を行なう。潤沢な資金を持つラテンアメリカの競争相手は,Uber の配車事業に攻撃を仕掛けた。 競争相手との料金戦争の余波を受けて,かつては堅調だった Uber の売り上げの増加はフラットになり,赤字は風船のように膨らんだ。
そして,Uber の描く未来は確実と言うにはほど遠い。Uber の主たる市場は 人口密度の高い都市であるが,一部の推計によれば,アメリカ人口の 70% 超が農村地域
または 郊外地域に住む ── このような地域では車の所有は便利
かつ 安くつく傾向がある。配車サービスは タクシー業界を破壊したが,同時に公共交通から人を
釣り出し,大都市の交通を詰まらせ,その成長を抑える規制を自ら招いた。
あらゆる人類を運ぶ運転手の数には限りがあり,フル自動運転車がいつ現実のものになるか,
あるいは そもそも その可能性があるのかは,誰にも分からない。多くの若い都市労働者は車を持たないが,Sivak Appliedd Research によれば,アメリカの車所有率は。不況で下がった後,増加に転じている。
他方,Uber の筆頭株主 SoftBank Group Corp を含む 競争相手は 現金の多額の山を調達し続け,料金競争に火をつけ,黒字を執拗に捉えがたくする。
[Ola, DoorDash, Rappi などを指すか?]
"当社は,予測可能な黒字化の予定はない。" … と Khosrowshahi はスタンフォード大学のビジネス・スクールで 昨年11月に語った。"当社はこれを当社株主に告げ,株主が選択できるようにする。"
もしも当社株主が 黒字化の可能性を持つ企業を望むのであれば ── 銀行を買いに行け。" … と彼は 肩をすくめて言った。"長期こそは,我々が求めるものだ。"
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Uber CEO Dara Khosrowshahi が昨年9月,サンフランシスコの
TechCrunch Disrupt 2018 で話す。
(©David Paul Morris |Bloomberg)
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Uber 経営陣は 内輪では,現金を燃焼する料金戦争の新たな勝負が,料金引き下げにより Uber が反撃してみせたので,遅かれ早かれ 穏やかになると信じている … と事情に詳しい複数の人が言う。Khosrowshahi は投資家に,中核事業はうまく行っていると語ってきた。Uber は昨年,売上高は伸びていないにしても,無関係の費用を除外すると 配車事業で利益を上げており,乗車数と出前配達数で健全な伸びを依然として示していると言った。
外交官
Khosrowshahi は 2017 年に Uber により採用された。部屋の中の大人として,そして公開市場に備えるためであった。
前任者 Travis Kalanick は Uber の創業者であったが,その猛攻撃スタイルで 業界全体を破壊した。Kalanick は 自分がタクシー・カルテルと見たものを ── そしてついでに 配車の競争相手をも破壊しようとした。彼は 中国への拡大,出前配達への拡大,自律走行車への拡大を大きな目標に据えた。そして 事業者間の
戦いの帰趨を決めるのはカネであるとの気風を社内に育てた。Kalanick は 驚くほど資金調達がうまく,2016 年半ばには株式と債券で $140 億を調達した。アメリカのスタートアップ企業の調達額としては別格であった。
この急速拡大路線と血で血を洗う競争には,トラブった企業文化が付随していた。2017 年,一連のスキャンダルが Uber を巻き込んだ;セクシュアルハラスメントと性差別の訴え;アルファベットからは 自動運転の
企業秘密を Uber が盗んだとの訴え;警察の取り締まりを免れるためにソフトエア Greyballl を使っていたことを Uber が認めた。
最終的に,取締役会は Kalanick を CEO から追放し ── ただし 現在も 9% 弱の株を持つ大株主である ── 旅行予約会社 Expedia Group の CEO だった Khosrowshahi で置き換えた。Khosrowshahi は,スキャンダルまみれの会社を安定化することができそうな 有能な人物と目された。
テヘラン生まれで,名門 ブラウン大学の卒業生は,外交官の役目を務めた。彼は,Uber の文化が "我々は
正しいことをする。 ピリオド" という宣言を含むと再定義した。かつての Uber が軽蔑の目で見ていた規制当局に 彼は敬意を示した。
間もなく Khosrowshahi は,自分の副官たちに,Kalanick の下でやっていたような競争への拘りを辞めるよう求めた。
複数の元従業員によれば,以前はライバルを負かすことに集中していた 毎週行なわれる全社員集会でトーンを和らげ,シェアのわずかな上下を示すチャートを取りやめた。競争があることに変わりは無いが,焦点は長期のゲームだと彼は従業員に助言した。
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バンコクで UberEats 配達運転手がオートバイに乗る。
(©Brent Lewin | Bloomberg News)
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Khosrowshahi は,Uber が弱い地域で 激しい料金競争から撤退することにした。東南アジアでは ライバル Grab とバンコク,シンガポール, ホーチミン市でシェアを巡って一騎打ちの戦いを繰り広げていたが,その営業を Grab に売却し,Grab の 27.5 % の権益を受け取ることにした
[2018年3月]。
彼は その後,中東の主たる競争相手 Careem を買収する協議を始めた;Uber は 今年はじめ取り引きを結んだ
[2019年3月,$31 億]。彼はその他の 高くつく事業を縮小
または 廃止した。自動運転トラックをやめた。リース部門もやめた。
全体として,これらは 計算された手法だった。或る元マネージャは,Khosrowshahi の下での Uber の感じを "世界制覇" よりは "IPO 実施のための最適化" と形容した。
"彼は,Uber を公開する路線上に載せることに いささか経験深い目を持って乗り込んで来た。" … と,Expedia の初期のころの CEO で創業家でもある Rich Barton は言う。
輸送のアマゾン
それと同時に Khosrowshahi は,配車事業以後の Uber の寿命の備えをした。
1年に数億ドルもの経費を要する自動運転部門を売却せよとの社内の声に,彼は抵抗した … と事情に詳しい複数の人が言う。この事業は,2018 年3月に 自動運転テスト車が歩行者を死なせた後,2018 年に部分的に
閉鎖された。ところが Khosrowshahi は車両を路上に戻し,最近 SoftBank を含む投資家グループと この部門のカネのかかる運営の一部の資金負担をしてもらう $10 億の契約を結んだ。
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Uber が実施するテスト運転に使われる自動運転車両。 ピッツバーグで撮影。
(Kyodo News | Getty Images)
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Uber Freight のトラック。 (©Jim Allen | FreightWaves)
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Khosrowshahi はまた,電動のスクーターと
自転車を共有する事業を強力に推進し,貨物配達ブローカー事業を拡大した。貨物配達は,乗客を乗せる配車や出前とは ほとんどシナジーが無いように見えるが,とにかく 成長が急である。
他方,Kalanick の下で始まった UberEats
出前配達事業は,すぐに芽を吹いた。 Khosrowshahi は,世界中で拡大すべく これに予算を大きく増やすよう指示した。この事業は,新星のように浮上した。余りにも見事な成長ぶりに,経営陣の多くは いずれ Uber の主たる事業である配車をこれが追い越すのではないかと考え始めた。
間もなく 黒字転換か とさえ思われた。毎四半期 乗車数と売上高が増える中,赤字は縮小を続けた。Uber の営業損失は,2018 年の第1四半期に −$4.78 億となり,前年同期の −$8.18 億から縮小した。乗車当たりの費用を抜き出す社内の重要な数字は,マイナスからプラスに転じた。ここで費用から除外されるのは,株式報酬費用,自動運転研究開発費,一部の管理費である
[訳注:この話の続きは (↓), 出前配達戦争では ・・・ ] 。
IPO と話のつじつまを合わせるために,Khosrowshahi は Uber を輸送のバラバラなカテゴリーに対する
ワンストップ・ショップと位置づけ始めた。彼は,Uber を (書籍の販売から始めて 何でも売る E-コマースの
ハブになった) Amazon になぞらえる。
ただし,言われないままに放置されているのは,両社の間のいくつかの決定的な違いである。Uber はこれまで $200 億を遥かに超える資本を 株式と債券で調達し,プラス IPO ではさらに $90 億を調達する予定である。 対するアマゾンが調達したのは,創立後 10 歳を迎えた 2004 年までに $30 億に満たない。
Uber vs. Amazon
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創立後8~10年の売り上げと利益の比較。
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アマゾンの数値には インフレ調整を施した。
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さらに決定的な違いがある:収益性の違いである。アマゾンは誕生後 10 歳の時,既に 満2年続きで黒字の会社だった ── 純利益 $5.88 億だった。その後黒字を続けて 2012 年に小さな赤字になった。
Uber は,2019 年の最初の3ヵ月だけで $10 億を超える赤字である。
誕生後 10 年であるが,一部のオブザーバーは,Uber の基本事業に
そもそも意味があるのか いまだに疑問視する。
"Uber の問題は,彼らが利益を揚げられないことだ。" … と ニューヨーク大学企業財政学教授 Aswath Damodaran が言う。教授は Uber の評価に 多年疑問を持ち続けている。"配車事業では,誰も利益を上げていない ── したがって,これは Uber に特有の問題ではあり得ない。
事業モデルそのものが機能していないのだ。"
減速
昨年半ばまでに, Khosrowshahi の下での Uber の進歩の一部は,
資金の豊富な競争相手が参入する中で ほどけ始めた。
Uber の市場へ参入する障壁は,カネを除けば ほとんど全く無い … と一部の投資家は言う。Uber のアプリと競争相手のライバルが運用するアプリは ほとんど同一である ── 乗客が運賃割引で釣りだされ,運転手が インセンティブの支払いで釣りだされるという 軍拡競争では,これは もってこいの条件である。
カネは Uber だけに流れるのではない。大勢の競争相手にも流れるのだ。しかもその資金源は同一である:SoftBank だ。大君 Masayoshi Son が率いる日本の会社とそのほゞ $1,000 億の基金は,時には それらが互いに戦っていようがいまいがそれには構わず,地球上の配車と出前配達市場の大きな切れ端を取得した。
その効果は,Uber 事業の王冠宝石である ラテンアメリカで目覚ましい。この地域では もともと競争相手がまばらで マージンは高かったのであるが,Uber の古くからのライバル 滴滴出行が,昨年 SoftBank などの投資家から $40 億以上を調達するや,突如としてこの地域に姿を現した。Uber は既に中国で滴滴出行に降伏していた;ピーク時には1週間に $0.80 億を超える損失を重ねていたと 元幹部らが言う。Uber は,2016 年に中国事業を 滴滴出行の株式と引き換えに売却していた。
今や 新たに手に入れた SoftBank という富を抱えて,滴滴出行は Uber とその金城湯池と考えられていた地域で戦い始めた。シェアを奪うためにブラジルにカネを投入し,メキシコでも新たな戦線を開いた。メキシコ No. 2 の都市グアダラハラのような都市で,滴滴出行は 運転手をリクルートするために,通常の2~3倍の高い収入を保証する広告の洪水を打った。同時に乗客には $25 相当の割り引きをオンラインで宣伝した。
Uber は,独自の割引で対抗し,売り上げの減少と赤字の増大と引き換えに,シェアを部分的に奪い返した。
ラテンアメリカは,Uber の最急速成長地域だったのが,最鈍速成長地域となった。売り上げの年間成長率は,2017 年の +215% から 2018 年には +22% に下がった。
アメリカでの戦いも,Lyft と Uber が同じ日に IPO を申請した 昨年末から過熱を始めた。Lyft は乗客に割り引きのシャワーを浴びせ,Uber は同じことをするよう追い込まれた。Lyft の公開市場への荒っぽい登場 ── 株価は3月の IPO から −10% 以上下がっている ── は,Uber にその IPO への野心を和らげさせた。
ロードレース
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Uber の赤字は,配車と出前配達の競争相手が
資本を調達すると共に膨れ上がる。
Uber の EBITDA
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出前配達戦争では,かつては どうなることやら分からないと見られていた DoorDash が, 2018 年3月と8月に SoftBank から $8 億弱の
大金を調達した。DoorDash は販売員と運転手を使ってアメリカの郊外を席巻し始め,多くのレストランにそのアプリを急速に浸透させた。UberEats は,アメリカのオンデマンド出前配達のシェアで,それまで 業界首位の GrubHub Holdings に次ぐ No. 2 だったのが,Edison Trends によれば,2019 年初頭には No. 3 に転落し,DoorDash が
首位になった。
Uber 経営陣は,DoorDash の抬頭におびえる。就任直後,評価額を $15 億以下と投資家が見ていた頃,Khosrowshahi は DoorDash を買収しようか迷った … と状況に詳しい複数の人が言う。だが行動を起こさなかった。DoorDash は最近では 約 $70 億に評価されている。
Uber [Eats] は,インドでも同様の圧力下にある。
PitchBook によれば,Swiggey,Zomato という名前のスタートアップ企業2社が,合わせて $17 億を調達した。両社はインド中に割り引きの しぶきを上げており,運転手は ロゴの入ったパックパックを背負ってオートバイで走り回る。Zomato は,"12 月は 家庭で料理不要" という名前の 50% 割り引きプロモーションを行なった。今年1月にも この
プロモーションを繰り返した。
競争がインドで高まる中,Eats の販売員は ほとんどの取り引きで Uber が受け取ることになっている 30% の手数料を ── 時には 15% に引き下げてもよいと言い渡された。だが これでは黒字化の見込みがますます遠ざかる… と或る元従業員は言う。
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A worker for a food-delivery app picks up an order to bring to a customer at a roadside restaurant in New Delhi.
(©Chandan Khanna | AFP | Getty Images)
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Uber のアメリカでの最大のレストラン・パートナー McDonnald's との独占契約は,厳密に言えば 稼ぎ頭ではない。Uber は, 注文ごとに僅か 15 ~ 16% の手数料を取るに過ぎない … と事情に詳しい複数の人が言う。 かつては 20% 近かったのだが, 2018 年の契約更新により引き下げられた。Uber は,新規顧客獲得の手段として 一部の大手チェーン・レストランには手数料の割り引きを行なっていると言う。
昨年末の時点で,Uber の財務の惨状は明白だった。
配車事業による第4四半期の売上高 ── 運転手へのインセンティブ支払いとその他経費を差し引いたもの ── は,半年前から微増の $22.8 億だった。UberEats の調整後売上高は 最後の3ヵ月に −14% 減の $1.65 億だった,プラスに転換していた内部指標は,マイナスに戻った。
この出血は,今年の第1四半期にも続いた。Uber の営業利益の赤字 (営業損失) は YoY で2倍以上に膨らみ, $10 億を超えた。また 調整後の全売上高は この3四半期連続で事実上フラットに留まる。
これでは,いまだに株式報酬を抱える元従業員の不安は募る。
競争の弾幕放火が Uber を挫いたことは確かであるが,複数の投資家と 元 Uber 幹部らは,それも間もなく納まると 予想し,希望すると言う。数十億ドルの IPO 資金があれば,Uber はシェアを守り, ライバルを振り払う戦いに臨むと旗印を上げる … と 彼らは言う。
だが,そういう平和な未来は ずっと先のことだろう。
火曜日,ラテンアメリカでの Uber の出前配達の主たる敵 Rappi が,Uber にとって歓迎されざるニュースをもたらした:SoftBank が Rappi に $10 億を投じるというニュースだった。
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— Corrie Driebusch and Robbie Whelan contributed to this article.
Write to Eliot Brown at eliot.brown@wsj.com