WeWork は 2019 年を 上場の失敗,大口たたきのユダヤ教改宗者の創業者 Adam Neumann CEO の喪失,目を剥く巨額の企業価値 $470 億,数千人の従業員のレイオフ ならびに 資金切れになる直前の SoftBank Group からのベイルアウトで終えた。
共用作業環境が raison d'être
[存在理由] であるコワーキング巨人が最後に必要としたものは,同社のロケーションの大半を空っぽにした世界的パンデミックだった。ビル全体を独占使用するために買収したいと言う企業との協議の中で,作業者が共有された交流空間を望むという思想は 急速に支持を失った。
WeWork は,コロナウィルスの蔓延が世界経済に大打撃を与える前に,生き残りの問題に既に直面していた ── IPO の申請書は,毎年 数十億ドルのカネを燃焼していることを示していた。今では,一部の人の間では,WeWork が消滅し,その後に 何十もの空っぽのオフィスを残すのではないかとの恐れが高まっている。
"このパンデミックで,WeWork のような事業モデルは 既に深刻な事態に陥っている。" … と WeWork をしっかり追跡してきた CenterSquare Investment Management のアナリスト Alexander Snyder が言う。 "彼らは 断崖絶壁の上に立ち,非常に深い奈落の底を覗いているところだ。"
"この状態が続けば続くほど,破産の懸念は増す。" … と彼は言う。"爆発までに残っている導線は短い。"
WeWork は,不動産業界で オフィスの大家と (標準の 10 年契約をする余裕の無い) 中小企業とのあいだの一種の仲介役を務める。WeWork は,ビル所有者と 長期のリース契約を結び,そのスペースを 柔軟な条件で 個々の作業者や組織に又貸しする。この事業モデルが 同社に 世界中のリース債務 $470 億をもたらしている。
"これはリスクの多い事業モデルであり,経済のマクロなサイクルに非常に弱い。" … と全国の大家のために テナントの信用力を評価する Tenant Risk Assesment の Brad Tisdahl CEO が言う。"「Covid-19 の経済的影響のために WeWork もその他の コワーキング企業もやられるとしたらどうなるのか?」 と誰もが問うのは正しいと私は思う。"
実際,WeWork は既に 何らかのひずみを示している。WeWork は経費削減のために US の一部のロケーションについて 4月分のレンタル料の支払いを停止した。さらに リース料を再交渉するために法務会社 JLL と Newmark Knight Frank を雇った … と
Wall Street Journal が水曜日に報道した。
Aurora Capital Associates のプリンシパル Jared Epstein は,"WeWork は当社の全てのロケーションに
レンタル料を払ってくれない。払わないという通知さえよこさない。これは 酷い状況だ。" … と 最近の
Commercial Oberver のウェブ・セミナーで語った。
WeWork のスポークスマンは声明で,"我々は 当社ロケーションの長期的成功
ならびに 大家との良好な関係を信じる。レンタルについては,オーナーと作業を進めている" … と語った。
"レンタル料支払いについては全社的政策を実行するのではなく,当社は 600 を超える世界中の大家パートナーに 個別に手を伸べ,全ての関係者の利益となるよう 資産ごとの解決を見出すことに 誠意をもって努める。" … と同社は E-メールによる声明で言った。
WeWork のオフィス利用率は, 4月初めに約 64% に下がった。WeWork はリース料の支払いを求めたが,数千の会員が 支払いを
あるいは 拒み,
あるいは 解約を申し出た … と
Financial Times が伝える。WeWork の会員はまた,エピデミックの蔓延する中,多くのロケーションを開けたままにして 会員がほとんど使っていないのに課金する WeWork のやり方に不満を申し立てている。
"会員にフルに会費を払わせて,我々がオフィスを使えないというのは汚いやり方だ。彼らは 何のサービスも提供していない。従業員は在宅勤務している。" … と WeWork を2年使っている会員が
Commercial Observer に E-メールで伝えてきた。そのロケーションは,コロナウィルスの感染を確認したと言う。"私は
4月分の会費について話し合おうとしてきたが,通信が切れて,話をまとめることができない。"
WeWork のスポークスマンは,未払いのテナントの数を確認できないと言う。ただし,多くの会員が暮らしに不可欠の事業を行なっているので,同社ロケーションをオープンのままにすることを選択したと言う。
"WeWork は多くの会員のホームグラウンドであり,その事業は ── 医療,保健,清掃用品のサプライなどのように ── 我々の社会に欠かせないものだ。彼らは その営業を続けるために我々におんぶしている。" … とスポークスマンは言う。"この理由で,WeWork のロケーションをオープンのまゝにし,会員が利用できるようにする。Covid-19 パンデミックの中で,当社は 我が会員を支援し,当社計画を発展させ続けることをお約束する。"
今月初め,大手の支援者 SoftBank は,WeWork 株式 $30 億相当を株主から公開買い付けする取引をキャンセルした。これは数十億ドルの巨額救済の一部であり,Neumann から約10 億の "黄金のパラシュート" を剥奪した。この動きに対し,WeWork 取締役らの特別委員会は 契約違反であるとして SoftBank を提訴した。
SoftBank の提訴は 当初 WeWork に取って悪いニュースのように見えたが,一部の人は SoftBank にとって正しい動きだと言う;なぜなら この公開買い付けはほとんど Neumann と一部の機関投資家を利するだけであり,これを取りやめれば SoftBank が WeWork に注入するカネの余裕ができるからだと言う。
"あのカネは 現在の株主を利するだけであり,会社には行かない。" … と WeWork の競争相手 Breather の元顧問で NPO アーバン・ランド研究所の技術創新会議の Dror Poleg 議長が言う。"WeWork の事業にカネが行くなら 遥かに良いニュースだと思う。"
とは言え,この買い付けをキャンセルすれば,コロナウィルスのパンデミックを乗り切るために $410 億の
資産を売却しようとしている SoftBank は,WeWork へ投入することになっている追加の $11 億も契約により保留することができる。
"それは WeWork に取って痛い。" … と Snyder は言う。
Commercial Observer が入手した 3月26日付けの Sandeep Mathrani CEO
および Marcelo Claure 議長から投資家に送られた書簡によれば,WeWork は 2019年末現在,"現金
および 現金コミットメント (プロフォーマ値)" を $44 億所有し,これはコロナウィルスのエピデミックを乗り切るのに十分な余裕を与える。
"当社は,WeWork が 戦略計画を有し,財務状況が健全であることを ここに再度 申し上げたい。" … と Mathrani と Claure は書簡に書いた。"当社は,これが Covid-19 による短期的なチャレンジとボラティリティの管理を含む 2024 年までの計画を実行するために必要な財務資源と流動性を提供するものと信じる。"
WeWork の売上高は 2019 年に Y/Y で +90% 増加して $35 億になった。
[(訳注) しかし,損失額の記載が無いことを FT は問題視している。]
有利子負債は 2025 年に満期を迎える元本 $6.69 億の優先債を含めて $13 億である。
昨年夏の IPO 申請で,WeWork は将来のリース債務が $470 億であると書いた。
SoftBank の深いポケットが 現在の嵐を WeWork が乗り切るのを助けると考える人もいるが,多くの人は,WeWork がリースする不動産の ── 特に WeWork が最大のオフィス・テナントであるマンハッタンでの ── あまりの膨大さを考えれば,失敗の可能性を懸念する。
"私はそれが怖い。" … と Jared Epstein が言う:"我々の多くは 10 年前にこういうことを見ている。彼らは不動産で失敗するには余りにも大きくなり過ぎた。"
Savills のレポートによれば マンハッタンでは,コワーキング企業が 合計 1,470 万 ft² をリースしており,オフィス在庫の 3.1% を占める。トップ5のコワーキング・プロバイダ WeWork, Knotel, Regus, Convene, Spaces は,2030 年まで 大家に年間レンタル料 $7.55 億以上を払う契約をしている。もしも すべてのコワーキング空間が市場に戻されれば,現在の クラス A 稼働率は 11.6% から 48 % 上がって 17.2% になるだろう。
Knotel は 既に 全世界のポートフォリオにわたって ── マンハッタンでは特に大量に ── 100 万 ft² を
戻す計画を発表した。Convene は 同社のロケーションを一時閉鎖した。
WeWork は マンハッタンで首位であり,Savills によれば,マンハッタンの全コワーキング空間の 58%,850 万 ft² を占め,年間レンタル料 $4.863 億を支払う。WeWork はまた,マンハッタン区で あらゆる業界にわたって No. 1 のオフィス・テナントである。
"特に小さなビルの場合には,これらのコワーキング・プロバイダの多くは,ビルの 50% 以上を占有する傾向がある。" … と Savills のニューヨーク州と周りの3州地域のリサーチ・ディレクタ Danny Mangru が言う。"もしも WeWork が破産すれば,大家のレンタル収入は 蒸発しかねない。"
2019 年8月の時点で,WeWork は少なくとも ニューヨーク市のビル5棟を丸ごとリースしており,少なくとも1ダースの他のビルでは 50% 以上をリースしている … と
The Real Deal が報告した。
Savillis のレポートは,ニューヨーク市で大きなコワーキング空間を持つ5社の大家を追跡したものであり,もしもすべてのコワーキング企業が破綻すれば,その5社が $0.28 億 ~ $0.38 億の基本レンタル料を 2029 年まで失う可能性を見出した。
"コワーキング企業が閉店した場合に大家が失うレンタル収入の額は バカでかいものだ。" … と Savills の Americas Research のトップ Sarah Dreyer が言う。"これらのプロバイダと この影響を弱める協議をすることになるに違いない。"
大家の中には,120 万 ft² のポートフォリオの中の 33.3% (40 万 ft²) をコワーキングにリースしている CIM Group,490 万 ft² のうち 12.2% (60 万 ft²) をコワーキングにリースしている Moinian Group,2360 万 ft² のうち 2.1 % (50 万 ft²) をコワーキングにリースしている SL Green Realty Corp が含まれる。
"これ
[WeWork の破綻] は,ニューヨークの大家にとって 大惨事だ。" … と Poleg は言う。"一部の大家は
結構だと言うだろう。だが 彼らは用意ができていないから,信じたくない。"
Brad Tisdahl は,もしも WeWork が解散すれば マンハッタンのオフィス市場にとって痛みを伴うことに
同意する。ただし,その痛みは大家とビルに広く分散するので,全面的な破滅にはならないと言う。
"マンハッタン全域にわたって 彼らは ビルを分散させている。多数の大家が 多数の所有権を分散させており,これがうまく行っている。多くの異なる大家の間にも分散されている。" … と Tisdahl が言う。
Savills のレポートは,マンハッタンの WeWork オフィス空間を 3つのカテゴリーに分類する:(1) 作業員が ホット・デスク
[時間をずらして共用するデスク] に密集したコワーキング,(2) 中堅企業向け専用のやゝ大きめのオフィス空間,(3) 企業顧客向けのオフィス空間。レポートは,最初のカテゴリーが マンハッタンで 約 100 万 ft² を占め,WeWork の生き残りとは無関係に 最大の危険をもたらすことを示す。
"ここは 本当に非常に非常に密集した空間だ。" … と Dreyer は言う。"これは WeWork のポートフォリオの1面であるが,今の市場では 時代遅れである。"
コロナウィルスは狭い場所で拡がるので,将来は こんなに密集した空間に詰め込まれるのを人は嫌がるだろう … と多くの人が予想する。
"多数の人を同じ場所に閉じ込めて あらゆるアメニティを共用することは,おそらく ウィルスのため,見通し得る将来に人が関心を持つことにならないだろう。" … と Epstein は言う。
だが,SoftBank がこれを切り抜けることができ,しかも パンデミックが 3ヵ月以上にわたって オフィスを空っぽにすることが無ければ,WeWork が生き延びるチャンスは,数週間前に 厳しい 2020 年を受け入れていた頃と同じくらい高いだろうと Poleg らは 期待する。
"彼らは今年,数多くの痛みを受け入れることを覚悟していた。" … と Poleg は言う。"彼らは 多数のリースを再交渉しようとしていた。"
Mathrani CEO は レンタル料を 30% 引き下げるために,ニューヨークの大家と連絡を取って,リース契約を 収益分配契約に切り替えられるかどうか打診している … と
Bloomberg が報道した。
Bloomberg によれば,初期の協議は思わしくなかった。
この種のタスクに Mathrani ほど向いている人はいないらしい。新任の WeWork CEO は,モールの所有者 GGP を不動産業界最大級の破綻から回避するのを助け,リースを再交渉する手腕で知られている … と Poleg が言う。
そして,企業がオフィスに戻ることができるようになれば,不況の際に長期リース契約を警戒していた多くの人の心に 柔軟性が浮かぶだろう。
とは言え,今 苦しんでいるのは WeWork だけではない。柔軟オフィス市場の競争相手も コロナウィルスのパンデミックの中で 危機を感じている。Convene は 150 人近くの従業員をレイオフした;Industrious は 90 人をレイオフした;The Wing は 全従業員の半分を削減した。
昨年 ユニコーンの仲間入りをして WeWork の不振を喜んでいた Knotel は,400 名の全従業員の半分をカットして,500 万 ft² のポートフォリオのうち 20% を解約したいと大家に申し入れた ・・・ これについては
Commercial Observer が既にお伝えした。また,ニューヨーク市の一部の大家には, 4月分のレンタル料を
払わないと通告した。
Knotel のトラブルは 実は コロナウィルスのエピデミック以前から発生していた;
Business Insider が報道したように,Knotel は数ヵ月 ベンダーへの支払いを停めており,事実上 売上げ目標を大幅に外していた。
(開示:Observer Media の議長 Joseph Meyer が率いる Observer Capital は,Knotel に投資している)
柔軟オフィス業界全体が コロナウィルスのパンデミックのために 再編と敗退の危機の中にあるが,WeWork は かなり良いチャンスを持つ立場にいる;それは (今回 SoftBank は同社最大級の投資に損を引き受けたくないようであるが) WeWork は懐の深い SoftBank の寛大さに支えられているからだ … と Poleg が言う。
SoftBank のトップ Masayoshi Son は,最近の
Forbes のインタビューで WeWork にこれまで過大に払い込んだが ── SoftBank は 合計 $142.5 億を WeWork に注入した ── WeWork の立て直しにコミットすると強調した。
"我々は WeWork の過大な評価に払い過ぎた。また経営者を信頼し過ぎた。" … と Son は
Forbes に語った。 "しかし,我々は WeWork に新経営陣と新プランを投入した。我々は WeWork を立て直し,そこそこのリターンをするつもりだ。"
SoftBank の支援が仮に無くても,WeWork は他社より 優位にある;なぜなら テナントに対するサービスが良いからだ … と Managed by Q の Dan Teran CEO が言う。"大家は この数ヵ月 音沙汰が無かったのに,今では交渉にオープンである。" (Teran はもともと 2019 年に 退社するまで WeWork の企業開発部門のトップだった。Teran の Managed by Q は昨年 WeWork に買収され,今年3月 WeWork のライバル Eden に売却された。Teran は CEO の座に留まっている)。
[(訳注) ここで,WeWork のライバル Eden に売却されちゃった Managed by Q の Teran CEO が WeWork を引き立てる発言をしていることに注目したい。もともと WeWork の従業員だったのであるから当然であるが]
SoftBank の支援なしでも,WeWork は他社より優位にある;それは WeWork がテナントに他社より良いものを提供するからだ … と Teran は言う。
それでも,WeWork 10 年の歴史において 今ほど重要な時期は無い。その運命は, SoftBank の生き残りと
密接につながっている。
"もしも彼らがこの危機を生き残ることができないのであれば,危機が無かったとしても 結局は生き残ることができないだろう。" … と Poleg は言う。"彼らは SoftBank に依存している。他に助けてくれる人を見つけることは困難だろう。"
Commercial Observer とは << Wikipedia
Observer Media は,アメリカのオンライン・メディア企業である。
同社は,2017 年の New York Observer による買収を含めて,何回もの買収を経て現在の形になった。Observer Media はニューヨーク市 lower Manhattan に拠点を置き,実業家 Jared Kushner が所有していたが 2017 年1月に Joseph Meyer がオーナー兼出版人に指名された。同社は現在 Commercial Observer を出版する。
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Jared Kushner は 2017年1月9日に大統領上級顧問に就任を発表され,同年1月20日に就任した。
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Sandeep Mathrani は,Charlie Kushner と その息子 Jared Kushner と親交があり,現大統領顧問のファミリー・ビジネスの教師をしていた。Kushner は Mathrani を "業界で最も優秀で才能ある不動産関係者の1人" と絶賛する (The Real Deal, 2020/02/25)。